それは、1920年代から30年代、マンハッタンに住む裕福なアメリカ人は週末になるとリラックスした雰囲気を求めロングアイランド島の別荘で過ごしていたといいます。このような時代背景をキャンバスにマンハッタンの摩天楼、そして対照的なロングアイランド島のリラックスした美しい街並み、その二つを繋ぐ大きな架け橋から着想を得て誕生しました。

カサブランカは、貴族階級の人々がバカンスで訪れ、ゴールドやプラチナ製の時計をパーティーなどで着用する傍ら、日常ではステンレス製の腕時計を着けて優雅な時間を過ごしたとされています。このようなノスタルジックな世界観をもとに、サハラ砂漠の砂塵からメカニズムを保護するステンレススティールを使用し、街灯すらない真っ暗な夜道のために夜光塗料を施した文字盤を、うだるようなアフリカの暑さにも負けないタフなカーフベルトをそれぞれ思い描き、誕生しました。ひとたびカサブランカを手にしたとき、人は旅への熱き想いを掻き立てられてしまうことでしょう。

ケースを形づくる3本の曲線の軸が集まるポイントを球面上の1点に見い出すために、それぞれのラインが完璧な均衡を保つよう緻密な計算が繰り返されました。その結果、独自の3次曲線によって立体的なフォルムを与えられたトノウ カーベックスは、3本の曲線の完璧なバランスによって成り立っています。20世紀のアール・デコ様式のデザインを蘇らせながら、現代のスタイリッシュなデザイン感覚をも併せ持つトノウ カーベックスは、独特のフォルムばかりか、アヴァンギャルドな文字盤によって、その個性的な表情をいっそう際立たせています。しかも、ケースのシェイプばかりか、裏蓋、文字盤、針、サファイアクリスタルまでもケースに合わせて正確に仕上げるため、極めて精巧な工作技術が要求されます。

本来時計の顔となる文字盤を排除し、その下層部にあるムーブメント全体を極限まで削ぎ落とし、徹底した躯体構造のみの美しさに心血を注いでいます。また、それはその細部至るまで徹底されています。9時位置のチラネジ付きモノメタルテンプの中心部に見る磨かれた銀色の緩急針は、本来は機械の裏側に配置されるべきもので、時計師だけが見る裏方の調整針を、あえてデザインの一部とする洒落たな演出が施されています。

躯体のベースとなるメタル素材は、軽度と強度を兼ね備えた最高峰の金属「スーパージェラルミン」を採用し、シンメトリカルに配置したV字型のブリッジは、まるで吊り橋のような巨大建築の構造体を想起させます。