フランク ミュラーは、奇跡的な時計ブランドである。男女を問わず“欲しい時計”に頻繁に名が挙がる、憧れの対象。しかもファッションリーダーやクリエイターらと同時に、実業界のトップたちもこぞって愛用する。それは見た目に優れ、技術に秀で、直感でも理性でも人を虜にする稀有な時計である。
しかしその歴史は、100年の老舗が顔を揃えるスイス時計の世界にあって、圧倒的に短い。フランク ミュラーは、30年ほどで高級時計の世界を変えてみせたのである。今、我々が樽型の時計を見ると、真っ先に思い出すのはこの名前だ。踊るようなアラビア数字を、時には一つひとつをカラフルに彩る流行も、フランク ミュラーが最初の震源地である。一方で複雑を極めた超絶技巧をミクロの空間に凝縮し、天文学的な価値で世間を驚かせることもある。美しく映え、理知的に図抜けていることを両立させたブランドの魅力には、抗うことが難しい。
時計師フランク ミュラーは、名門ジュネーブ時計学校卒業時の20歳で、すでに誰の目にも才能が明らかだった。卒業制作で複雑時計の永久カレンダーを独力でつくり上げてしまった神童はその後、最難度の修復の分野で名を挙げた。特別な注文にのみ応じて製作した時計の評判も凄まじく、天才は自分のブランドを立ち上げる決心をしたのである。
「ヴァンガード」は、そんなフランク ミュラー最新のフラッグシップコレクションだ。卓越したフランク ミュラーの造形感覚は、本作で過激なほどに先鋭化している。樽型フォルムは出世作「トノウ カーベックス」の既視感を誘いながら、アヴァンギャルド=前衛を意味するネーミング通り、まったく新しい。
底流にあるのは1920~30年代に全世界を席巻した芸術潮流、アール・デコのレガシーだ。しかも1930年代、新大陸でアメリカン・デコとして爛熟し、今もニューヨークに屹立する傑作クライスラー・ビルディングを生んだ当時の熱気を、現代に映してみせる。
文字盤のフランジ(見返し)には、東西南北と方位角がノーティスされた。「人生における時間というものは、広い海を航海することと同じように目印のないもの。だからこそ、時計を身につけるとき、常にどこにでも行けるという自由な気持ちと、自らの意思を優先して欲しい」。それは“時の哲学”を人生のコンパスに表現した、フランク ミュラーのメッセージである。
近未来的でパワフルな
新しいスタンダード
2014年に誕生した定番のトノウ カーベックスにはない、グラマラスなトノウ型フォルムが特徴の新コレクション。ダイアルのインデックスはヴァンガードのためにデザインされた立体的なアラビア数字を配し、力強い迫力のある表情に仕上げられている。