Story 4.1
フランク ミュラーといえば、色鮮やかなインデックスが踊るように描かれた、華やかな文字盤を思い起こす方も多いでしょう。この個性的なインデックス“ビザン数字”が登場したのは、1986年のこと。大きく、時間を読み取りやすい大きな数字であることはもちろん、時間の流れを表現した遊び心溢れるタイポグラフィーとカラフルな色彩を添えることで、フランク ミュラーの文字盤はアート作品のように豊かな表情を湛えています。フランク ミュラーの文字盤を製作している、スイス・ジュラ地方にあるダイアル工房は、素材から仕上げまでを一貫して行う“文字盤のマニュファクチュール”とも呼ばれています。
2:55 | 2017.03
FRANCK MULLER Brand Story Movie
フランク ミュラーの文字盤を象徴するこだわりの一つが、エナメルです。エナメルを塗っては乾かすという作業を繰り返し、何層にも塗り重ねています。色をつけた後に、透明なエナメルを20回かけてコーティングする工程は、塗っては30分真空に置いて乾かす必要があるため、非常に長い作業時間が要されます。通常は文字盤の彩色後に一回の噴射で終わるところを、何度も繰り返すことで、フランク ミュラーのエナメル文字盤は驚くほどに瑞々しく、艶やかに光を取り込むようになるのです。
殊に難しいのは、ブルー文字盤などの濃い色彩。ブラックやシルバー、ゴールド、そしてブルーなどは特殊な染料で着色されますが、その時に微妙な時間の差で色合いが変わってしまうだけではなく、透明のエナメルを施して最後に研磨した際、非常に傷が見えやすくなってしまう色でもあるからです。湾曲した文字盤を活かした深みのある文字盤へのこだわりは、熟練した職人によるセンスと技術とがあってこそなしえるもの、ということができるでしょう。工房で使用しているエナメルは、すべてジュネーヴ製。スイスメイドへのこだわりから選ばれたことはもちろん、マットとグロスを合わせても8000 種類以上の豊かな色が揃えられており、これらの色を組み合わせることでフランク ミュラーの鮮やかなクリエーションが完成します。文字盤は時計の顔となる部分のため、最高峰の“美観”を求められてしまう厳しい世界。工房で問題がなかったとしても、風防を付けた段階で傷が発見され検品の工程で破棄されることも多く、テスト作品をジュネーヴ本社に送り、OKが出るまで何度も試作が繰り返されていきます。
“カラードリーム”の時を刻むカラフルなインデックスには、細やかな手作業によるペインティングが施されています。インデックスもここ数年はフランク ミュラーの考える繊細なデザインに合わせるために、立体的なアップライドのデザインが多く取り入れられるようになりました。足の着いたアップライドを一つ一つゴムで押してセットするという緻密な作業に加えて、ブランド・ロゴのエナメル部分も手作業で描かれているという点もフランクミュラーならではのこだわりです。そうした意味ではペイントも職人技の見どころの一つであり、例えば花をモチーフとした繊細な飾りも、花の中心がマットで花弁がグロスなどという異なる仕上げと共に、エナメル職人の手で一つ一つが彩られていきます。ミリ単位のほんのわずかな誤差で商品とならなくなってしまうため、ここでもまた緊張を伴う緻密な作業が続けられているのです。
かつブラックインデックスなどに用いる転写印刷に関しても、紙に印刷するのとは全くの別物で、独特のボリューム感と立体感が生まれるように、手作業で行われています。手彫りのギョウシエからはじまり、いまだに文字盤製作は全て職人の技が生きています。製作当初からの文字盤の型を今でもすべて保存しているこの工房では、最先端の機械を用いながらも古いプレス機が今も使えるように修復するなど、昔の技術を守りながらのアップデートが繰り返されています。
そしてフランク ミュラーで人気を誇る時計の一つが、マザーオブパール文字盤のウォッチ。マザーオブパールはここ数年レディースォッチで人気を博していますが、フランク ミュラーではそのずっと以前から、マザーオブパール文字盤の製作に取り組んできました。約0.4ミリの文字盤に、ペイントを施した同じく0.4ミリのマザーオブパールを貼りつけますが、難題となるのが、フランク ミュラー ウォッチの最大の特長である湾曲した文字盤。
トノウ カーベックスをはじめとするこの文字盤に合わせるにはマザーオブパールを“曲げた”状態で象らなくてはならず、通常よりも倍、あるいは3倍となる厚みが求められます。故にマザーオブパール文字盤50枚を作るとしたら、数トン単位の量が必要に。フランク ミュラーでは南半球の美しい海で取れた真珠母貝を使用していますが、厚みを持たせるために、3、4カ月の時をかけてじっくりと貝を育てていくことから製作は始まります。マザーオブパールは自然の産物のため、美観に関する判断も実に十人十色。貝の選別一つをとってもまた、長年製作に携わってきた職人の確かな目が要されるのです。
フランク ミュラーの文字盤は、今やおよそ数千種類以上といわれています。ダイアル工房の責任者であるジャン・ポール・ボイヤ氏は、大体1日に10 種類くらいの新しいデザインの文字盤を生み出してきた、と語ります。かつては3~4種類だったサイズも今では16種類以上に。女性向けのミニウォッチでもただ単に従来のサイズを小さくすればいいというわけではなく、小さくなればなるほど難しいインデックスの配置など、搭載ムーブメントやケースとのバランスを考えた設計が最初から考え直されます。こうして時間をかけて完成した作品は二つに一つが破棄されてしまい、全体のごく一部しか日の目を見ることがないという厳しい検査が続けられていくのです。
マニュファクチュールとは「手で作る」ことを意味する、機械ではできない緻密な手作業が文字盤に豊かな表情をもたらします。そこがフランク ミュラーが最も大切にしている点であり、自由な製作への挑戦が、ボリューム感に溢れ、深い光沢を湛えた数々の美しき文字盤を生み出してきました。卓越した職人技と妥協なき製作姿勢が、フランクミュラーの豊かな発想力をさらに色鮮やかで芸術的な世界へと彩るのです。