そして 1986 年、当時若干 28 歳のフランクミュラーは、腕時計のトゥールビヨンの製作に成功しました。そのトゥールビヨンは懐中時計のムーブメントよりもはるかに小さく、すべて極小のパーツによって構成され、より高度な技術を要求されながらも、動きの激しい腕に付けても故障が少ない画期的なフリーオシレーション(自由振動)システムという独自の機構を開発しました。この発明によってフランクミュラーは"ブレゲの再来"や"若き天才時計師"と称され、いちやくその名前が時計界で知られるようになったのです。
【 IMPERIAL TOURBILLON 】
「Imperial Tourbillon」と名付けられたそのモデルは、かつて、アジアの王侯貴族が懐中時計のトゥールビヨンを所有するも、その複雑さとデリケートな機構が故、よく故障を起こしたことから、『この時計には悪魔が憑いている』と不吉な時計だと嫌ったという言い伝えがありました。その逸話にヒントを得たフランクミュラーがこのトゥールビヨン"を作りました。当然のことながら故障が少ないトゥールビヨンを開発する技術は、そもそもフランクミュラーの真骨頂でもありますが、このモデルでは、トゥールビヨンの天符(テンプ)を納める Cage(籠)を、鋭利な剣に模し、それを常時回転させることで、内部に侵入しようとする邪気から天符を守る役割としたのです。これは同時に時計の心臓部である天符を人の"生命"にたとえ、この時計を持つオーナーに降りかかるべく災いから救われるようにと、元来の精度を追求する為の装置に留まらずいわゆる"魔除け"や"お守り"といった物として、そのメカニズムの在り方に精神哲学をもたらせています。
【New Blade Design】
~邪気を振り祓う強力な“PENDULUM”~
新作のこのモデルでは、ケージのブレードデザインが新しくなっています。インペリアルトゥールビヨンでは回転する 3 本の鋭い剣が特徴でしたが、今作のトゥールビヨンでは、3 本の内のひとつが大斧のような形状に変更されています。これは“ペンデュラム”とよばれる中世にあった振り子式の罠を模してデザインされており、この“ペンデュラム”によって、悪魔の侵入がさらに困難となり、切り祓う力がより強固になるように改良されています。つまり魔除けの力をアップグレードさせたのです。同時にこの大剣自身が秒針の役割も担っています。
【PENDULUM】「ペンデュラムブレード」=振り子の原理を使った大斧の罠