「人生における時間というものは、道標の存在しない広大な海原を航海するのと同じではないでしょうか。だから、時間を身につけるとき、つねに何処にでも行けるという自由な気持ちと、自らの意思を優先して欲しいと願っているのです」
フランク ミュラーは、自身の遊び心をとても大切にしています。この遊び心を大切にする彼のモチベーションこそが、現代の天才時計師とまで讃えられ、数々の腕時計づくりを発想するパワーを生み出していることは間違いありません。
超複雑機構を搭載したグランドコンプリケーションとか、ユニークなケースデザインや文字盤などを創り出すクリエイティブなアイディアはもちろん、フィロソフィカルモデルと呼ぶ、たとえば文字盤にランダムに配列された時刻の数字を目掛け、正時になると時針がジャンプして時を指すクレイジー アワーズなど、『時の哲学』という独自の思想を盛り込んだ腕時計も、彼の遊び心なくしては生まれなかったのです。
遊び心を大切にするフランク ミュラーは、太陽や夏が大好きです。海もボート遊びも大好きなのですが、あまり知られていませんでした。彼は、モナコには、スーパーヨットと呼ばれる大型のパワーボートを係留していて、夏になるとコート ダ ジュールを走り抜けてサントロペへと向い、地元の人たちが集まるプライベートビーチ近くのヴィラに長期逗留し、満喫しているのです。彼が、操船の基礎を身につけたのは、およそ30年ほど前。8名ほどが乗り組んでセーリングすることができる、全長50フィートほどのヨットでした。
ヴァンガード ヨッティングは、ヴァンガード コレクションをベースに、スーパーヨットのダイナミックなラインを随所に表現した潮っ気のあるモデルです。まず、船舶用機器の高い視認性などを受け継いだブルーの文字盤には、ウィンドディレクションや艇が向かうヘディングを意識したコンパス方位が描かれ、ケースサイドはスーパーヨットの艇体をイメージするなど、ボート遊びの達人でもあるフランク ミュラー自身が、デッキ上での至福の時間を見事に蘇らせています。
海は、優しく、雄々しく、永遠なるロマンの源でもある。セイラーを魅了してやまないのは、セイリングをするためのヨットやスーパーヨットと呼ばれる大型のパワーボートを所有し、ボート遊びに興じることである。それは、一種のステイタスのように思われがちだが、文化でもある。
かつて、七つの海を支配することが、世界に冠たる海洋国としての国力を顕示するために欠かせなかった時代があったが、このことと決して無縁ではないだろう。ボート遊びをすることは文化を残すことに通じ、セイラーたちが夢中でボート遊びに興じることが時代を超え、続けられてきた。
大航海時代、つまり、15世紀半ばから17世紀半ば頃には、ヨーロッパ諸国は、アフリカ、アジア、アメリカ大陸を目指した。この帆船が主役の時代には、ヨーロッパ中の英知を集め、長い航海も可能な大型帆船を建造し、正確な航海術を身につけることが国益にも通じることとなった。
航海術が、進化を遂げた時代である。セイラーたちは、海が語りかけてくれる微妙で、かつ密かなインフォーメーションを味方にするための道具を開発。自艇のポジションを把握するため、セクスタント(六分儀)という天測機器を使って星や太陽の水平線からの高度を、航海用マリンクロノメーターと呼ぶ機械式時計によって正確なローカルタイムを計測していた。