「複雑時計の機構には、世界初のものが多く、もちろん大切です。しかし、私にとっては、デザインウォッチも、とても重要なポジションにあります。デザインウォッチと呼ぶモデルの代表は、カサブランカです」
カサブランカ創作への意気込みを語る、フランク ミュラー。彼が、インスピレーションを受け、モデル名の由来としたのは、名画の誉れ高い映画『カサブランカ』だとも語っています。カサブランカは、フランク ミュラー初のステンレススティール モデルとして登場し、傷つきにくいタフなケースで、サハラ砂漠の舞い上がる砂塵からもメカニズムを保護。さらに、街路灯のない真っ暗な夜道でも視認性を確保する蓄光塗料を施した文字盤と、文字盤との相性が良いダイアルカラーは、旅を彷彿させる風合いのあるデザインです。また、アフリカの酷暑にも負けない耐久性のあるカーフベルトは、ロウ引きされたステッチがアクセントとなっています。
エキゾチックな感覚に満ち、旅心を刺激するカサブランカ。フランク ミュラーの遊び心は、『時の哲学』に裏づけられた感性を物語ります。
フランク ミュラーが憧れを抱き、モデル名とした映画『カサブランカ』。映画から、どんなインスピレーションを受けたのだろうか。
「パリのエレガントな香り、モロッコの砂漠の色合い、当時のダンディズム、そして、洒落た感じでしょうか。映画を鑑賞してもらえれば分かりますが、あの雰囲気が、腕時計に合っていたのです。ステンレススティール ケースであっても、高級感があってエレガント。文字盤の色も砂漠を想像させる風合いで、この腕時計の名称には、ピッタリだと思いました」
フランク ミュラーの口調からは、ヨーロッパの人々が憧れ、出かけて行った、アフリカへの強い想いが感じられる。舞台となったカサブランカは、物語が展開した1940年代、フランス領モロッコの都市であった。
現代のカサブランカは、近代的な商業や金融の中心地である。ただ、かつてフランス領であったため、タクシー ドライバーもフランス語が堪能で、ヨーロッパの影響が深く浸透していることを感じさせられる。
映画『カサブランカ』は、1942年に製作が開始され、同年のアカデミー賞にて作品賞、監督賞、脚本賞の3部門を受賞。第二次世界大戦下という時代背景など、当時のヨーロッパの実情を巧みに捉えている。この映画が高く評価されるのは、厳しい社会情勢を取り上げながら、登場する場面設定や交わす台詞など、洒脱な感覚に溢れているからではないだろうか。なかでも、主役のハンフリー ボガートが、シャンパーニュのグラスを掲げながら、相手役のイングリッド バーグマンに、「君の瞳に乾杯」と語りかける台詞は、オリジナルでは「Here's looking at you, kid」だが、肝心のストーリーよりも有名になってしまった。また、霧の掛かった夜の空港で、ハンフリー ボガートがトレンチコートを着用して登場するラストシーンは、台詞も注目されたが、コートまでもが話題となった。