The Time with FRANCK MULLER
Illustration by Hiroyuki Mabuchi
The Time with FRANCK MULLER

遊び心とともに、『時の哲学』が刻まれていく。

 

カサブランカ

「おそらく、1年のうちの半分ほど旅をしていました。世界各地の愛好家に会ったり、ほとんど出張ですが、旅をして、人々と触れあうことで、新たなアイディアを得ることもあります。異なる国やそこに暮らす人々、そして、多彩な仕事振りにも触れ、分野の異なるクリエイティビティのなかから、自分自身の作品に何らかの影響を与えるものを見つけるのです」

旅に次ぐ旅の連続で多忙だった、と語ってくれたフランク ミュラー。それでも、彼が創作する腕時計には、ファンタジーがある、と言われています。そして、このファンタジーに溢れた独自の発想を支えているのは、シリアスとも思える超複雑機能の技術であり、世界各地を巡る旅なのです。

ロングアイランドは、ニューヨークのマンハッタンに滞在していたとき、自分自身の展示会に出席するためロングアイランドを訪ね、着想したといいます。また、アフリカやサハラ砂漠への憧憬が募り、エキゾチックな仕上がりとなったのが、カサブランカです。機能はシンプルですが、色やテイスト、デザイン的な新しさやスタイルなど、徹底してユニークさを追求。だから、『時の哲学』という独自の思想を盛り込んだ腕時計も、彼の遊び心なくしては生まれなかったのではないでしょうか。

VANGURD

カサブランカは、1940年代に初公開された映画『カサブランカ』がヒントとなってネーミングされました。フランク ミュラーが初めて手掛けたステンレススティール モデルで、1994年に発表。同名の映画のように、ヨーロッパの人々が憧れを抱いた1920年代から1940年代の北アフリカのモロッコ、とくにカサブランカからインスピレーションを得て発想され、デザインされています。トノウ カーベックスを基本としていますが、独自の特徴を備えています。まず、ステンレススティール製ケースはサハラ砂漠の砂塵からメカニズムを保護し、タフなカーフベルトはうだるようなアフリカの酷暑にも負けない耐久性を備え、蓄光塗料で描いたビザン数字は街灯すらない真っ暗な夜道でも時刻を読み取りやすくしています。しかも、マットな文字盤は、通常のモデルのように紫外線から保護するUV処理をあえて施すことなく、使っていくうちにヴィンテージ ウォッチのような風合いを醸し出し、エイジングまで愉しめるよう工夫されています。まるで、砂漠を背景に活き活きと躍動する、ヨーロッパから持ち込まれたエレガンス。フランク ミュラーの閃きが、異国への熱き想いを掻き立ててくれます。

FRANCK MULLER Life Style

スペインのアルヘシラスを出航したフェリーは、狭いジブラルタル海峡を短時間で渡り切り、モロッコのタンジェへ入港する。アフリカ各国行きの長距離バスが、フェリーから次々と吐き出され、それぞれの国を目指しタンジェを後にする。タンジェは、地中海の東の端。いよいよ、右手に大西洋を眺めつつ、首都ラバトを経て、カサブランカまで南下する。フランク ミュラーが憧れを抱き、モデル名にまで選んだカサブランカとは、どんな街なのだろう。

Life Style
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カサブランカは、商業や金融の中心地であり、近代的な都会であった。ホテルも、レストランも、街並みも洒落ていて、映画『カサブランカ』に登場した雰囲気ではなかった。もっとも、映画のストーリーは1940年代である。フランク ミュラーが憧れた、あのエキゾチックな雰囲気に浸るためには、サハラ砂漠に接近するべきだ。熱っぽく、ホコリっぽい空気感が漂う、マラケシュやワルザザートへ向かう。マラケシュの旧市街は、迷路のように入り組み、中心のジャマ エル フナ広場は、屋台はもちろん大道芸人などが、渾然と集まっている。ワルザザートは、赤茶けた景色が広がるサハラ砂漠の入口なのだが、意外にも、『スター ウォーズ』、『アラビアのロレンス』など、著名映画のロケ地としても知られ、映画好きにはモロッコのハリウッドなどと呼ばれている。

Life Style
Text by Motoki Shimizu / Photo by Masaru Suzuki
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