夏が終わろうとしている季節なのに、真っ青な空に浮かぶ雲は、どう見ても真夏のカタチをしていた。だから、早い午後に始まる予定の集まりのことは気になってはいたが、ついつい、抜けの良い青空と太陽、そして、吹き上がってきたシーブリーズの誘惑に負けてしまい、思いのほか、マリーナに帰港するタイミングがズレ込んでしまった。
気持ちは急いているが、船脚を控え目に抑えながら、所定の浮桟橋へアプローチ。舫いを取り、シッカリと艇体をつなぎ止める。大急ぎで、セイルと艇体を水洗いし、海水を流し、身ぎれいにしていく。いくら気持ちが急いていても、この次も快調にセイリングするためには欠かせない儀式だ。清めたところで、デッキをカバーで覆っておく。
1時間ほどで、出かける時間となってしまう。急いで部屋に戻り、汗だくとなったTシャツとショーツを脱ぎ捨て、シャワーとグルーミングを済ませ、身支度を終えなければならない。ドレスコードは、スマートカジュアルなので、それだけでも、余裕があるのが嬉しい。ひと足早くシャワーを終えた彼女こそ、もっと助かっているに違いない。
マリーナ脇のホテルには、声を掛けられたメンバーが集まっている。誰もが、シャワーを浴びたばかりだから、とても爽やかな表情をしている。手もとで泡立つ液体が、フッと涼を運んでくる。冷やされた液体が喉を通過するたびに、会話も快調に弾む。
陽射しのある時間帯には、大海原で身も心も自由にさせる。そして、サンセットをスイッチ代わりにして切り替え、バルコニーを行ったり来たりしながら、会話を繰り返す。浅黒く陽射しを浴びた二人の腕には、ある記念日を意識して揃えたトノウ カーベックスが、この日の着こなしにフィットしている。そういえば、フランク ミュラー自身も、太陽と海が大好きで、しかも、ボート遊びも大好きだ、と何処かに書いてあった。
トノウ カーベックス
オーダーメイドで依頼された1本のオリジナルウォッチが、やがて見本市に出展され、愛好家たちに注目された。フランク ミュラーによる、個性を際立たせるトノウ カーベックスこそ、贈り合うためのペアウォッチ。
フランク ミュラー自身が、トノウ カーベックス誕生の物語を語ってくれたことがあります。熱心なイタリア人愛好家の奥さまから、1本のオーダーメイドを依頼されたことが、すべての始まりです。彼女からは、ひと言、100%オリジナルデザインであることでした。創作意欲を刺激された天才時計師は、平面的なトノウ型とは異なり、3次元曲線による立体的なフォルムで、腕時計ケース全体が球体の一部になっているようなイメージで創作。同時に、この1本のトノウ カーベックスのために考案したのがビザン数字です。時刻の視認性を考え、数字を大きくしながら文字盤のバランスに配慮し、スタイリッシュにデザインしました。見本市でお披露目すると愛好家たちから熱烈に支持されたことは、ご存じの通りです。
マスター オブ コンプリケーション
「無限に小さなものに、つねに大きな関心を抱いてきました。自分自身で発見したすべてのものを絶えず研究し、分解し、手を加えてきたのです」
フランク ミュラーの大きな功績のひとつは、かつてポケットウォッチ/懐中時計のために考案された超複雑機構を腕時計に組み込んだことです。彼は、多くの超複雑な機構を、いかに小さなムーブメントに搭載することができるか、という崇高な目標のために絶え間のない挑戦と努力を続けてきました。
『Master of Complications/マスター オブ コンプリケーション』、数々の超複雑時計を手掛ける名匠、といった思いが込められた言葉です。実は、フランク ミュラー ウォッチランドで手掛けられる腕時計の裏蓋には、このマスター オブ コンプリケーションという言葉が明確に刻み込まれています。この言葉は、また、時計創りの哲学でもあり、同時に、時を刻む機構を創造しながら、時の支配から解放することを意味しています。
フランク ミュラーは、トゥールビヨン、ミニッツリピーター、パーペチュアル カレンダーという3つの超複雑機構を精巧なマスター コンプリケーションとして完成させました。そればかりか、これらのグランドコンプリケーションとも呼ばれる超複雑機構を、シングルで搭載するばかりか、幾つか複数搭載した腕時計をも完成させています。
マスター オブ コンプリケーションは、過去の偉大なる技術を継承しつつ、決してそこにとどまることなく、新しい高度な技術力と美的な表現を駆使することで、新しい世紀にあっても腕時計をより進化させることに通じています。もはや、現代では忘れ去られようとしている、本来の“時”の解釈を新たな表現で腕時計というキャンバスに描くことで、人と時の密接な関係を想起させ、“時の慈しみ”すら気づかせてくれます。裏蓋に刻まれた言葉には、そんなフランク ミュラーの揺るぎない“時の哲学”が込められています。
フランク ミュラー ウォッチランドは、デザインから各パーツの製作、さらにはムーブメントの組み立てから装飾などまで、高い能力と技術力を備えたスタッフや施設、設備によって品質と性能を確立しています。しかも、フランク ミュラー自身は、時には時計業界の基盤を揺さぶるような革新的なアイディアにより、まだまだ世界を驚かせ続けています。
フランク ミュラー ウォッチランドは、また、時計王国スイスにあっても希少なマニュファクチュールとして輝いています。腕時計が、Haute Horlogerie/オート オロロジェリ/高級腕時計として評価され、輝かしい称号を得ていくためには、近代的な手法ばかりではなく、熟練した手作業による工程が必須です。フランク ミュラー ウォッチランドは、すべての工程において練達の職人の技によって腕時計愛好家を唸らせています。
複雑な機構を創造しながら、同時に、時の支配から解放するための“時の哲学”を提案していきます。だから、フランク ミュラーは、超複雑な機構を手掛けているのです。