目覚めた瞬間から、シーツに身を包んだままジッとしている。天井を睨みつつ、海の方向に全神経を集中させる。漏れてくる光の具合はもちろんだが、耳に届く海からの声も、叫びではなく、囁きなのが感じ取れる。自分の目で確かめるまでもなく、快適なセイリングが期待できそうだ。
リビングに降りていき、視線を、テラス越しの海面と空へ向けてみる。風も、波の状態も、光と音で判断したとおりである。朝のうちは、海面もフラットで、風も、ところどころで息をしているだけである。陽が昇り、海水温が高くなれば、午後には沖からシーブリーズが入ってくる。
ミルクをタップリと注いだ濃いめのコーヒーとともに、軽めの朝食を済ませ、マリーナの桟橋へ向かう。この日のセイリングは、激しい動きを求められるレースや練習ではないから、セイリング用のウェアやシューズも、身軽なもので充分である。セイリング後には、タップリの水でデッキを洗う予定なので、ゴム草履も忘れないようにしなければいけない。
夏が始まったばかりの海は、まだ気配も温和しく、静かである。しかも、太陽の高度が低く、沖からの海風が届いていない午前中だから、艇首が波を切る小さな音だけが、リズミカルに、心地良く聞こえてくる。風が吹き上がってくるまでは、このまま、風まかせで流していくつもりだ。
ガラステーブルの上で、涼しげな表情を見せているのは、ヴァンガード 7デイズ パワーリザーブ スケルトンである。
ヴァンガード コレクションは、もともと、ボート遊びが大好きなフランク ミュラーが、大海原を航海する豪快で自由な世界感をタップリと盛り込み、文字盤の外周に沿った部分には、コンパス方位を刻みつけている。そこには、「人生における時間というものは、道標の存在しない大海原を航海するようなものである。だから、時間を身につけるときこそ、つねに何処にでも行けるという自由な気持ちと、自らの意思を優先して欲しい」という、“時の哲学”を込めている。
さて、ヴァンガード 7デイズ パワーリザーブ スケルトンだが、見るからに構造的であり、かつ幾何学的なオープンワークのムーブメントがあり、美しく構築されたムーブメントそのものを、飽くことなく眺めることもできる。また、ヴァンガード コレクション特有のスポーティなケースと、文字盤に溶け込むオープンワークの針がマッチし、このデザインをひときわ際立たせる特徴的なアクセントとなっている。
ヴァンガード 7デイズ パワーリザーブ スケルトンは、およそ7日間のパワーリザーブ機能を備え、エネルギーロスが少なく、エコロジーな概念を主張するモデルである。その性能の高さと信頼性はもちろんのこと、デザイン的な感覚からでも新機軸であることを明白に主張している。設計から組み立てまで、すべての工程をフランク ミュラー ウォッチランドで受け持ち、美しいスケルトンデザインを具現化するとともに、時計職人の技と細部へのこだわりが息づいている。
1992年、ブランドとしてスタートしたフランク ミュラーですが、続く10年間は、特別な複雑時計に加え、一般の愛好家たちが、ごく普通に欲しい、と感じたら手に入れることのできる腕時計を充実させてきました。デザイン ウォッチと呼ぶ、定番とも言えるコレクションです。
デザイン ウォッチの代表的な存在は、“カサブランカ”です。次に、旅の途中でインスピレーションを受け、“ロングアイランド”を誕生させました。そして、“クレイジー アワーズ”の登場となるのですが、フランク ミュラー自身が、とても興味深い、発想の背景を語ってくれています。
「“クレイジー アワーズ”は、コンプリケーションと呼ぶ、複雑な機構による腕時計です。しかし、もともとの発想は、哲学的なのです。人は、無意識のうちに時に追われて仕事をしていたり、人生を過ごしたりしています。なぜ、時に縛られてしまっているのでしょうか」
「なぜでしょうか。通常、文字盤の表示は、上方の中央が12時、下方の中央が6時、という具合に位置が決められています。そのため、実際に文字盤をチェックしなくても、それぞれの位置が、人の脳にインプットされているので、固定観念になってしまっています。そこで、各数字を、一般的な時計の文字盤とは、まったく異なる位置にレイアウトし、人の脳に摺り込まれている時間位置とは異なる表示にしたのです」
“クレイジー アワーズ”は、慣れ親しんできた、12時間に分割された時の在り方を打ち破った腕時計です。文字盤の一番上には、12というインデックスは存在しません。毎時、60分間という時間が経過し、正時を迎えると、時針は、現時刻から次の時刻へと瞬時にジャンプし、次の60分間が経過するまで、その時刻を指したまま留まっています。
「人生は、あらかじめ決められたものではなく、自分の好きな人生にすべきです。人生を決めるのは自分自身である、ということを腕時計を通じて表現したかったのです。それでも、人は、時の流れから逃れることはできません。時間と、まったく無関係でいることもできません。そのため、たとえば、9時の時間表示が一般的な9時の位置にはなく、異なる位置にあったとしても、時刻を正確に表示できる腕時計を発想したのです。それが、クレイジー アワーズの哲学的な意味合いなのです」
“クレイジー アワーズ”のインデックスは、通常の文字盤とは異なり、自由気ままに配置されています。1日の時間が、24時間/12時間制に分割されたのは、紀元前、ファラオが君臨した古代エジプト時代のことです。このとき以来、文字盤の数字や目盛りは、デザインを変えることはあっても役目を変えることなど、ただの一度もありませんでした。インデックスの配列を自由に考え、実行することができたのは、複雑時計に造詣の深い、フランク ミュラーだから可能になったことです。
「このような、インデックスを自由に配置する発想は、一見、簡単そうに思えますが、完成させることは難しいんです。それは、腕時計が精密機器だからです。機械式のメカニズムを駆使し、24時間、365日、しかも、何年間も動き続ける精密機器は、実は、機械式腕時計しか存在しません」
時間は、自由なものです。いつの間にか人々を支配してしまっている時間から解放することも、フランク ミュラーの大切な役目です。次回は、この毎正時に時針がジャンプし、文字盤の上で自由に時刻を表示することのできる“クレイジー アワーズ”の機構について、お話しする予定です。
なぜ、フランク ミュラーは、現代の天才時計師と讃えられるのか。数々の複雑な機構を発想するばかりか、時を魅力的に表現するための感性を備えているからでもあります。それは、“時の哲学”という、時を知り尽くし、時を遊ぶことのできる、フランク ミュラー独自の境地でもあります。
フランク ミュラーは、2021年の新作を発表。
いち早く、フランク ミュラー愛好家の皆さまには、ジュネーブ近郊、フランク ミュラー ウォッチランドから、オンラインにて最新情報をお届けします。
>>> Click bellow for the information of new collection 2021