The Time for Two 二人には、いつもフランク ミュラーだけの輝きがある。
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雨が、突然、止んだ。信じられないぐらい、突然であった。少しだけ、太陽が顔を出しそうな期待感が周囲に漂っている。おかげで、空気が洗われ、木々の緑も濃く感じられる。吹き抜ける風も、ほど良い温度と湿気を運んでくる。傘を持たないで外出できることが、とても嬉しく感じる。

山間の山荘に到着したのは、昨晩であった。ただ、暗闇と雨のため、なんとなくだが、落ち着くことができなかった。それでも、ここまで来ると時間がユッタリと流れているのがわかる。この時の歩みは、とても貴重なものだ。何をするにも、心の落ち着きとともに行動することができる。

世の中の時間は、先へ先へと進んでしまうけれど、この山荘の時間だけは取り残されたように歩みが遅い。ここに到着するまでの行動パターンを振り返るように、自分自身の足もとを見つめ直す。そんな余裕を取り返すために、この山荘までやってくる、といっても決して過言ではない。

わずかだが、格子の間から木洩れ日が射してくる。夕方からは、地元の食材を仕入れ、ちょっとした夕餉を用意する。しかも、夕餉のために集まってくるメンバーには、およその時刻しか告げていない。山荘で過ごす特権として、夕餉とともに、山荘を流れる時間を堪能してもらいたい。

明朝を迎え、山荘を後にすれば、日常的な暮らしに戻っていく。そこでは、貴重な時を大切に、噛みしめるように過ごしていくことを心掛けなければいけない。時計の針が永遠に回り続け、時間までが永遠に続くことなどありえない。過ぎ去った時は、決して取り戻すことはできないのだ。

だから、愛用の腕時計は、過ぎ去った時は取り戻せない、ということを気づかせてくれるモデルである。フランク ミュラーが着想した、ビー レトログラード セコンド。過ぎ去った時の感覚を視覚的に感じられるよう、レトログラード機構により、上下2つの秒針が扇状に動いている。

どうせ、同じ時間を過ごすのならば、気に入らないことや、嫌いなことではなく、好きなことをやったほうが嬉しい。たとえば、大切な時間だからこそ、好きな人と一緒に過ごすほうが気持ちがよい。自分ならば、どういうふうに時間を過ごすのか、という考え方が、とても重要である。

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BI RETROGRADE SECOND

ビー レトログラード セコンド

上下2ヵ所に分けた2つの秒針が、それぞれの役割を素早く遂行し、時の本質を告げます。フランク ミュラーは、二度と戻ってこない「時の尊さ」に気づき、二人のために大切な時の在り方を提案。

ビー レトログラード セコンドの秒針は、複雑なレトログラード機構が担当。つまり、上下2ヵ所の秒針は、それぞれ0秒から30秒、30秒から60秒という表示を瞬時にリレーしながら進みます。レトログラード機構とは、針を扇状に動かし、秒はもちろん、時間、分、日付、月、曜日などにも応用することができます。語源は、惑星の逆行とか、退行というフランスの天文用語で、一定の経過を表示し終えた針を瞬時に逆行/フライバックさせ、表示を再開することから名付けられました。 機械式時計の歴史のなかでも、優秀な時計師だけが製作できる特殊な機構ですが、フランク ミュラーは、決して後戻りすることのできない、二度と戻ってこない「時の尊さ」に気づき、このレトログラード機構に着目。時の概念に哲学的な意味合いを持たせ、機械式腕時計の価値をも高めたのです。

FRANCK MULLER Story
骨董好きの少年は、すでに天才時計師としての片鱗を漂わせていた。
FRANCK MULLER Story 02

フランク ミュラーが語ってくれる、彼自身のストーリーには、多くの興味深いものがあります。これまで語られてこなかったエピソードのなかには、12歳の頃、すでに骨董品に関心があり、旧い機械製品を収集して修理しては売りに出し、お小遣いを稼いでいたというものがありました。さらに、骨董収集のエキスパートとして認められていた彼の将来を考え、近所の工房でアンティーク時計の修復をしていたナタン シュムロビッチさんは、ジュネーブ時計学校へ入学することを勧めてくれたのです。

「天才時計師は、いかにして誕生したのですか、という質問をよく受けます。私は、時計学校に通っているときから、かなりの評価を受けていました。時計学校では、驚きの連続でしたが、初めて情熱を注げることのできるものに出会えたのです。学校で解説されることは、すべて興味深く、もちろん、時計師という職業は、手作業による職人仕事ですから、技術的な側面が重視されます。しかし、数学、物理、そして、素材についての講義など、理数系の科目もたくさん受講します。その一方で、自分で手に取って作業をさせる、職人的な育て方をする学校でした。初めて、自分にピッタリとフィットする、これだ、と思えるものに出会えたわけです」

話しは、ちょっと逸れますが。フランク ミュラー自身が、彼のストーリーやエピソードを語ってくれた場所は、ジュネーブに建てられている自宅です。ご覧のとおり、外観もインテリアも、とてもクリエイティブな感覚に溢れている住宅で、『世界の始まり』と名づけられ、宇宙空間のなかで地球が誕生したところを表現しているのだそうです。ただし、この住宅のアイディアは、フランク ミュラー自身の発想ではありません。この『世界の始まり』と名づけられた住宅は、一人のアメリカ人建築家と二人のスイス人建築家による共同作品なのだそうですが、実際にデザインを描き、具体化していったのは、オーナーでもあったアーティストだと伝えられています。このアーティストは、かなりアヴァンギャルドな作風で知られていたそうですから、この特徴的な住宅の佇まいも理解できます。

「『世界の始まり』住宅は、1958年に建てられたのですが、当時、巨額の建築費が投入されたようです。なんでも、世界中のアーティストの作品から発想を得て、和風のタッチがあると思えば、スペイン風テイストのモザイク パターンなども採用され、バスルームとキッチンにはスペインのタイルが貼られています。全体は、木や石などの天然素材を積極的に使用し、曲線も多用され、有機的な印象の住宅に仕上がっています」

フランク ミュラーが手に入れ、暮らし始めたのは、2003年。その後、個人的な感覚をプラスした部分、そして、どうしても必要な部分のみ修復し、できるだけ手を加えないで、当時のまま暮らしているそうです

“時の哲学”という独自の境地に到達した、フランク ミュラー。現代の天才時計師と讃えられる彼でさえ、不屈の知識欲や努力、そして、経験を磨き上げるための、究極の技と叡知が大切なのかもしれません。

FRANCK MULLER Story 03

(さらに、次回へ続きます)

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